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正しい呼吸法を身につけよう

2022/07/22

声の出る仕組みを考える時、楽器に置き換えると分かりやすいと思います。
楽器の音を出すために

◦ギターなら弦を 『はじく』
◦バイオリンなら弦を 『こする』
◦打楽器は打面を 『叩く』
◦管楽器は管を 『吹く』

という動作をします。『はじく』『こする』『叩く』『吹く』この4つの動作のいずれか、あるいは組み合わせによって、楽器は音を出すことができるんです。

楽器

声という楽器はどうでしょう。なんとなく想像できた方もおられるでしょうか?

そうです。管楽器のように、声帯を『吹く』という動作で音を発します。フルートや、サックスや、トランペットなど、吹く楽器は息の流れが安定しないと奏でる音も安定しないものです。声も同じです。

心理的に不安な時や、恐怖を感じている時には、呼吸も不安定になり声が震えてしまいます。安定感のある声を出す(発声)ためには、いつでも安定して、息を肺から声帯に送り込まなければなりません。

ここで重要視されるのが『呼吸法』です。

今回は歌い手が習得しなければいけない、多くの項目の中でも重要なポジションにある『呼吸法』についてご説明します。

歌うための呼吸は普段と一緒で、普段と違う

これをお読みの方で呼吸をしていない方はおられないでしょう。「呼吸の方法、わかりません」という方も、呼吸していますよね。

自然な呼吸は、口や鼻から空気を肺に吸い込んで、酸素を血液中に送るために行われています。その息を使って声帯を振動させておしゃべりもしていますし、適当に歌も歌えますよね。

でも、もしも風船を道具なしで膨らませなければいけない場合、普段の吐く息の量では膨らみません。 強く長くフーーーーッと吐く必要がありますよね。 特に最初のひと吹きは、とても力がいりますよね。

暑い夏に食べるスイカの種を口に含んだことありませんか?ちょっとお行儀が悪いのですが、スイカの種を唇からフッと前に飛ばそうとするのを想像してくださいね。この時も ちょっと気合を入れてフッ!とシャープに短く吹かないと 、前に種を飛ばすことはできません。

このように強く長く吐いて風船を膨らませたり、シャープに短く吐いてスイカの種を飛ばしたりするような息の使い方を、なるべく楽に3~4分行なうことが、歌うための呼吸には必要です。

息を使って、長い音や短い音を、思い通りに表現する使命が歌い手にはあるからです。ギターでいうと弦をはじくピッキングという技術に相当するでしょうか。強すぎて弱すぎても良い響きが生まれないことが想像できるでしょう。同じように、歌では息の強さが大切になってきます。

歌うための呼吸法には諸説あってわかりにくい!

歌の呼吸法は、クラシック音楽の声楽歌手のために体系化されたのが歴史の最初でしょう。その頃からの呼吸法は大きく分けて2つあります。ドイツ唱法とベルカント唱法(イタリア)です。それぞれに違ったメソッド(方法)があり、時には対立しています。

少し退屈ですが、ここで呼吸の仕組みを簡単にご説明します。

呼吸の仕組み

呼吸とは、呼気(吐く息)と吸気(吸う息)の動作のことです。まず、肺の下にある横隔膜という、胸腔と腹腔を隔てている大皿のような膜を下に引き下げることで肺に空気を入れます。空気から酸素を体に取り込んだら、古い息を外に吐き出すために、今度は横隔膜を上げて肺の中の息を出します。

吐く息が声帯を通過するときに声の原音が作られるのですが、 歌い手はこの吐く息の量やスピードを自由にコントロールするために、横隔膜をゆっくり動かしたり、ツンツンと短く動かす技(?)を使います。

それを頑張るのがお腹周りの筋肉なのですが、この筋肉の使い方について、いろいろな説が説かれてきました。

習うメソッドが違うと混乱する呼吸法

ドイツ唱法とベルカント唱法の呼吸法の違いは、端的にいうと横隔膜を動かすお腹の筋肉を 固めて使うか、緩めて使うか なんですが、どちらが正しいということは言えません。

こういった『メソッドによる方法論の違い』は近年にもあります。

呼吸器に問題がなければ、特に呼吸法に重きをおくより、体の筋肉をリラックスさせて喉を開いて発声するべきというメソッドや、喉を締めて発声するので、息は少量送るだけで楽に歌えるメソッドなど、それはそれはいろいろあります。

複数の先生に習うことがあったり、ネット上の情報を理屈だけ真に受けて頭でっかちになったりすることで、発声方法、特に呼吸法について混乱する歌い手が多いのが現状なのです。

いい声が出るはずなのに、理屈に翻弄されて、いつまでたっても安定した気持ちのいい発声ができないという状態に、あなたは陥っていませんか?

結論! 良いお手本を見つけて耳をすまそう!

どのメソッド、どの方法を習ったとしても、結果として良い歌をうたう人がいます。

その人はどうやっているのでしょう?

それは、自分の耳のセンスを養って、良いものをどんどん聴いて、どんどん真似てみるという、自分を信じた実践です。
良い手本や大好きな歌い手の歌を聴いて、それがどんなボリュームで歌っているのかを聞き取る力をつけ、それを真似ることです。

それが自分に合った良い呼吸法習得につながります。呼吸法を求めるというより、自分に合わせて取り入れるというスタイルです。

イタリアの巨匠、テナー歌手のエンリコ・カルーソーは、自然な歌い方を支持した人で、呼吸法についても「人それぞれ体も声帯も骨格も、なにもかも同じじゃないのに、人為的に呼吸のための筋肉を鍛えたって同じ結果は得られない。歌うことで呼吸器官は自然に強くなる」という考えを持っていました。呼吸法についてのわかりやすい説明だと思います。

さて、自然な発声は大切なことですが、全く体を使わないのが良いとは言えません。 近年の日本人の歌い手は声が柔らかく、パワフル系よりも癒し系音作りが多いように感じます。歌を始めた人たちが、そういう音源を聴いて「こういう声で歌おう」と、いつまでたっても大きな声を出さないのは良くありません。

そんなことから、日本人は呼吸法を積極的に勉強して身につけることも必要だと思います。プロの歌手は柔らかく歌っているようでも、そばで聴くともの凄いボリュームで歌っているものです。楽器としての声の鳴りが、やはり『プロ級』なんですね。

そんなところも聴き分けてお手本にして、自分に合う呼吸法を試していきましょう。

呼吸の練習法の例

先にも書いたように、呼吸法は良い声を真似て歌っていくことで、その人に合った力がつくので 「誰もがこれをやれば間違いなし」という練習法はありません。

声を聴いてから、その人の発声に合った練習法をお伝えするのが正しいやり方です。とはいえ、ひとつだけ『発声時の息の流れを知るための方法』を記しておきますのでお試しくださいね。基本的には腹式呼吸なので、呼吸法の練習にもなります。

腹式呼吸が歌う時に適していると言われる理由は、息の量やスピードをコントロールできるからです。

息の流れと声を支える感覚を覚える練習法

  • 椅子に浅く座って姿勢よくします。後ろにもたれないで『ふたつのお尻』にまっすぐ乗って座りましょう。

  • 鼻から息を深く吸います。この時、ふたつのお尻に息を入れていくイメージです。お尻に息が入って背が伸びたようになります。(実際には肺に入っています)

  • 胸を高くして、さらにもう一息吸います。肩が外側に回って、顎を引いた良い姿勢になります。

  • Z音で『Zィィィィィーーーー・・・・・・』と発声します。楽な低めのピッチでOKです。前歯を閉めてZの発音です。声と一緒に息の音もZでしっかり出しましょう。ふたつのお尻を寄せていくイメージで息を吐いていきます。胸高く、肩外へ、アゴ引いたままです。胸が下がって、肩が前に倒れないように頑張りましょう。

  • 最後の最後まで吐き切りましょう。お腹周り(できれば背中も)の筋肉が疲れていたら正解です。吐き切ったら息を吸って楽にしてくださいね。何度か練習しましょう。

他にも
◦ 20秒かけて吐く
◦ 慣れたら短くスタッカートで吐く・・・などやってみましょう。

まとめ

息の流れと、お腹で声を支える感覚を知っていただけましたか?歌う時はこのように呼吸を使うことが多いですが、いつもではありません。『腹筋運動は効果ありますか?』と質問されることもありますが、歌うためには息を吐いたり発声したりすることで、呼吸の筋肉を鍛えるのがオススメです。

もう一度言いますが、「いつもこうして声を出す」ではなく「良い声を出すためにこう使う」です。出した声を確認しながら、あなたが良い声で歌える呼吸法を身につけてくださいね。

キャズミア
この記事を書いた人

キャズミア

■ 歌手・音楽家として
7歳でピアノ、16歳でボーカルを始め、アルバイトをしながらライブ活動などをして27歳、やっとの事で大手レコード会社からデビュー。それからはプロのシンガー、ライター、プロデューサーとして、2021年までアルバム制作とツアーを多数行う。 現在は一線を退き、後進の育成に力を注いでいる。

■ボーカル講師として
ボーカル講師歴は30年に渡り現役。 大阪・東京のスクールや専門学校で共鳴を最大限に使った発声法、バンド・アンサンブル等をレクチャー。ジュニアからシニア、アマチュアからプロフェッショナルまで多くの指導経験があり、レッスン生達が有名プロダクションで活躍している。